米国の経済指標

米ドルが為替市場において基準通貨となっているため、世界のマーケットに大きな影響を与える米国の経済指標は、世界から注目されている。米国の経済指標ブロックでは、発表される米国の経済指標を基づいて7つ分野に分割され、すなわち、金融政策・政策金利、財政・国際収支、物価、雇用、住宅、生産、景気・個人消費である。

金融政策・政策金利分野では、FRB住宅ローン担保証券買い入れプログラム、FRB国債買入れプログラム、政策金利を説明変数として用いる。FRB住宅ローン担保証券買い入れプログラムとFRB国債買入れプログラムは、FRBが量的金融緩和政策として市場への米ドル投入量である。一方、米国の金融政策は、米国連邦公開市場委員会(FOMC:Federal Open Market Committee)の会合の後で発表される。FOMCの会合では、マネーサプライの目標値や金利の調整、外国為替市場への介入など、米国の金融政策について決定する。年8回(約6週間毎の原則火曜日)が発表される。

財政・国際収支分野では、月次財政収支(月次発表)、経常収支(四半期ごと)、貿易収支(月次発表)、対米証券投資収支(月次発表)を説明変数として用いる。月次財政収支は米国連邦政府と予算外政府機関の財務状況を纏めたもので、その動向が世界的に注目されている。財政収支改善の場合、通貨ドルの信認を高めるので、為替相場がドル高に動く要因となる。経常収支については、米国は構造的な経常赤字を続け、自国の経常収支改善のためにドル安誘導をする手法もある。米国の対外貿易に関しても、恒常的に赤字になっている。米国の貿易赤字が拡大すると、過去の米国保護主義政策ではドル安への誘導が行なわれた経緯から米ドル売りとなりやすい傾向にある。一方、対米証券投資は、米国への資金(株式、国債、社債などへの投資)流出入が確認でき、資金調達ができているか否かを判断する材料となる。対米投資額がプラスの場合は、国外からの米国へ対する投資意欲が高いということで、ドルの買いであると言える。

物価分野では、消費者物価指数(月次発表)、消費者物価指数コア(除食品・エネルギー)(月次発表)、生産者物価指数(月次発表)、生産者物価指数コア(除食品・エネルギー)(月次発表)、PCEコア・デフレーター[1](月次発表)、輸入物価指数(月次発表)を説明変数として用いる。消費者物価指数と生産者物価指数は前にも説明したが、主にインフレ動向の判断に利用され、米国では特に食料品とエネルギーを除いた「コア指数」が重要視される。PCEコア・デフレーターは、個人消費支出関連のインフレを示す指数のうち、変動の大きな食品とエネルギーを除いたもので、物価判断基準において最も重要視される指標である。一方、輸入物価指数は、輸入品の物価を纏めた指数で、生産者物価指数の動向を把握するために用いられる。

雇用分野では、非農業者部門雇用者数(月次発表)、失業率(月次発表)、新規失業保険申請件数(週次発表)、ADP民間雇用者数(月次発表)を説明変数として用いる。米国の雇用状況が悪化すれば、金融緩和の継続及び金利引き下げが検討される。逆に雇用状況が改善されば、景気が過熱すると金融緩和の縮小・停止及び金利上昇が検討される。雇用に関する経済指標の中では、特に重要視されるのが非農業者部門雇用者数である。非農業者部門雇用者数は、非農業部門に属する事業所の給与支払い帳簿を基に集計された就業者数で、基本的に毎月第1金曜日に発表される[2] 。非農業部門雇用者数の増減は、労働市場における景気回復の目安とされている。一方、雇用の先行指標としては、新規失業保険申請件数とADP民間雇用者数の指標がある。毎週の木曜日に発表される新規失業保険申請件数は、過去1週間に失業者が新規に失業保険給付を申請した件数[3]である。ADP民間雇用者数については、ADP(Automatic Data Processing)社が行う雇用調査で、非農業者部門雇用統計の2日前の水曜日に発表される。

住宅分野では、住宅建設許可件数(月次発表)、住宅着工件数(月次発表)、新築住宅販売件数(月次発表)、中古住宅販売件数(月次発表)を説明変数として用いる。近年では、住宅に関連する指標は、サブプライムローン問題との絡みもあって重要度が増している。住宅に関連する経済指標は、米国の景気動向に敏感であり、景気の先行指標として注目度が高い。また、住宅の関連指標は、個人消費動向にも影響が大きい。例えば、住宅投資が活発化すると、家具・電気製品等への波及投資も生じると考えられる。こうして、住宅好調により、景気の拡大と繋がり、金融引き締めのために金利上昇圧力となる。

生産分野では、鉱工業生産指数(月次発表)、耐久財受注(月次発表)、耐久財受注(除輸送用機器)[4] (月次発表)、製造業新規受注(月次発表)、ISM製造業景況指数(月次発表)、ISM非製造業景況指数(月次発表)、NY連銀製造業景況指数(月次発表)、フィラデルファア連銀製造業景況指数(月次発表)を説明変数として用いる。景気転換の先行指標である生産に関連する経済指標は、雇用の関係に強く、景気判断の重要な指標である。鉱工業生産指数は、製造業部門の生産動向を指数化したものである。耐久財受注は、自動車、航空機、家電製品、家具など耐久年数3年以上の消費財で、設備投資の先行指標として注目度が高い。また、耐久財受注(除輸送用機器)は、変動幅の大きい輸送用機器を除いたもので、確かな受注動向を示す。製造業新規受注については、製造業の新規受注を表し、民間企業の設備投資計画の先行指標とされ、景気拡大の場合には、個人消費が増加になるために企業の生産活動が活発し、新規受注の増加に繋がる。一方、ISM景況指数は、全米供給管理協会(ISM:Institute for Supply Management)が製造業景況指数と非製造業景況指数を景気転換の先行指標として発表され、50%が景気動向の良し悪しを測る分岐点とする[5] 。また、地域の製造業景況に関する指数は、NY連銀製造業景況指数[6] とフィラデルファア連銀製造業景況指数[7]がある。この2つの指数は限られた地域であるが、製造の景況感を把握する際に利用される。

景気・個人消費分野では、四半期GDP(四半期発表)、個人所得(月次発表)、小売売上高(月次発表)、小売売上高(除自動車)(月次発表)、個人消費支出(月次発表)、景気先行指数(月次発表)、ミシガン大学消費者信頼感指数(月次発表)、CB消費者信頼感指数(月次発表)を説明変数として用いる。GDPは米国経済全体の景気動向を見る上で重要である[8] が、その注目度が低下しつつある[9] 。近年、個人所得や小売売上高、個人消費支出などは、個人消費全体のトレンドを把握する上で、重要な指標となっており、小売売上高の中で、自動車を除いた小売売上高の動向が重要視される。景気先行指数は景気先行指標と呼ばれ、景気の方向性・転換点を判断する上で重要視されている[10] 。一方、消費者信頼感指数は2つあり、すなわち、ミシガン大学消費者信頼感指数[11]とCB消費者信頼感指数[12]である。

注:
[1] PCEコア・デフレーターはコアインフレとも呼ばれ、季節的要因で変動の多い食品とエネルギー関連を取り除いた物価の変動率を表したものある。この指数は、実質PCE(Personal Consumption Expenditures)を計算するため、物価指数の中で格別に重要視される。
[2] 失業率は、非農業者部門雇用者数と同じ時間台で発表される。
[3] ADP社は約50万社以上の給与計算データを基に作成する雇用調査である。
[4] 耐久財受注(除輸送用機器)は、コア耐久財受注とも呼ばれる。
[5] 米国の製造業の300社以上の購買・供給管理の役員に、生産、新規受注、在庫、価格、雇用などの項目について、前月と比較し、「良い」、「変わらず」、「悪い」から3つの回答を選択してもらい、結果をパーセンテージで表したものである。ISM非製造業景況指数は、非製造業300社の購買担当役員に、製造業と同じのアンケート調査内容を実施して発表される。毎月に主要経済指標の中で発表が最も早く、注目度の高い指標と言える。
[6] ニューヨーク連銀が発表する、ニューヨーク州の製造業における景況感を示す経済指標である。
[7] フィラデルファア連銀の管轄地域で製造企業に向けてアンケート調査である。
[8] 米国GDP 成長率と為替相場は、正の相関関係にあると言えない。一般的にGDP伸び率が高くなった場合にドル高に、逆に伸び率が低くなった場合にドル安になる。ただし、GDPの成長が及ぼす影響から逆に変動する場合もある。例えば、輸入大国である米国GDPの成長率が市場の予想を上回ったとし、米国の経済が予想以上に好調になれば、海外製品の輸入が増え経常収支の赤字がさらに増えると予測された場合、ドル安になるという見方がある。
[9] 米国GDPに関する統計は、速報値、改定値、確報値があり、改定値が速報値の約1ヶ月後に、改定値が速報値の約1ヶ月後に発表する。米国GDP統計の発表頻度が多く、GDPに関する統計は不明瞭のことが誤解されやすい。また、米国GDP統計を発表する前に、GDP統計の構成要素をすでに知らせたこともある。
[10] 景気先行指数は、全米産業審議会が10の経済指標による作成した指標である。(1)週平均労働時間、(2)週平均失業保険申請件数、(3)消費財受注、(4)入荷遅延比率、(5)非国防資本財受注、(6)新規建設許可、(7)普通株500種株価、(8)マネーサプライ(M2)、(9)長短金利スプレッド、(10)消費者期待度指数。
[11] ミシガン大学消費者信頼感指数は、ミシガン大学のサーベイ・リサーチセンターが実施する消費者のマインド調査を指数化したもの。1964年の指数を100 として算出し、速報は300人、確報は500人を対象に調査を行っており、指数のブレが大きい。
[12] CB消費者信頼感指数は消費者信頼感指数とも呼ばれ、民間調査機関コンファレンスボードが発表する消費者に対するアンケート調査を基礎に消費者のマインドを指数化したもの。アンケートの対象者が5,000人とミシガン大消費者信頼感指数に比べ規模が大きいのが特徴である。